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2005年08月03日 開設    
2021年07月30日 更新

皐月

日本こころ歳時記

違いを知る若き国際人へ贈る日本文化ガイド~風が薫る~

◆風に色を見た美意識…

 5月は緑の季節。芽吹き始めた街路樹の若葉も新しい季節の歓びを語りかけてくる。山々は日ごとに緑の衣装を重ね、鮮やかな新緑に萌えている。時折、山麓から一陣の風が駈ける上がっていく。斜面の青葉は風に靡き、初夏の陽光にキラキラと輝く。

 木々を揺らす風こそ春の嵐だが、その風を私たちは「青嵐(あおあらし)」と呼んできた。大風は自然現象であるのにもかかわらず、単に嵐と言わず木々がざわめく姿に色彩を意識した点に日本人の風流な情緒が息づいていると言えよう。

◆薫風に泳ぐ鯉のぼり…

 風は本来、無臭、無色だが、初夏に吹く風に人々は緑を感じ、薫りさえ実感し「薫風(くんぷう)」と名づけた。春の風が「光る」なら初夏の風は「薫る」のだ。風に光や薫りを感じるのは詩人の感性に他ならない。短歌に「風薫る」と用い始めたのは『新古今和歌集』(1205)以後という。5.png

 新緑には詩心とは別の意味でたしかに薫りがある。その薫りを科学の視線で追ってみると、梢の先で芽吹き始めた若葉から芳香性の強い微粒子を発散している。この微粒子はフィトンチッドと呼ばれ、細菌類を殺す作用を持っている。つまり植物が芽を吹き出すと、その若い芽を餌として狙う雑菌が近づく。それを追い払うため、植物は必死に強い香りを放つ。それが風に舞い、薫風となって遥かなる山里へ届くのだ。

 この天然の香りあふれる風を、私たちは端午の節句に鯉のぼりのお腹にたっぷりと含ませて空高く泳がせてきた。鯉は出世魚と言われてきたため、鯉のぼりこそわが子の出世を願う親ごころの象徴でもある。

◆香りの強い菖蒲で災いを祓う

 そしてこの季節、香りという点で見逃せないのが「菖蒲」だろう。根元の赤い部分に強い香りがある。西洋ではイリス・フローレンチーナという菖蒲に似た花の根は、香りが強いため歯磨き粉の香料に使われている。これに対してわが国では菖蒲の香りは邪気と不浄を祓う目的で使われてきた。

 香料は貴重な薬だった。最近はプロ野球チームの優勝バーゲンの開店記念セールの際によく目にするがクスダマを割りのシーンだ。本来は開通した橋や道路に今後、一切の災いがないよう祈り祓うためだ。決して景気付けなどではない。この頃はクスダマを漢字で書ける日本人もへってきた。ただしくは「薬玉」と書く。香りの強い薬で厄祓いするのが本来の目的だからだ。たがら端午の節句には風呂に菖蒲を浮かせた「菖蒲湯」に入る。春から初夏へ季節が変化する、この時期に強い香りの精気で穢(けが)れを祓おうとした信仰心による。なお、菖蒲の鋭く尖った葉は日本刀に似ているため、菖蒲が尚武(武事を尊ぶこと)へ変化し男児の節句のシンボルになった事も見逃せない。

 国際人とは自国の文化という鏡で異文化を映し“違い”を理解する事が第一条件だ。
 各民族が互いに違いを認め合ってこそ国際化といえよう。誇りをもって自己への認識を深め、相手国を理解するためにも、若人よ!確かな鏡をもとう!

S. Y. J