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2005年08月03日 開設    
2021年07月30日 更新

神無月

日本こころ歳時記

違いを知る若き国際人へ贈る日本文化ガイド~相撲を取る~

 九月場所は終わった。次の本場所、九州場所は11月に始まる。ここ数年、モンゴル旋風が吹き荒れているが、忘れてならないのは相撲は日本の国技である事を。

 相撲の歴史は古く『日本書紀』には野見宿禰(のみのすくね)と当麻蹶速(たいまのけはや)の天覧相撲の記事がある。宿禰は後に神となり、東京・両国に宿禰神社がある。一方古墳の遺物に褌(ふんどし)を締めた力士の埴輪が発掘されている。埴輪は六世紀頃と推定されるから、その頃から相撲が取られていた事がわかる。

 天覧相撲から発しただけに、やがて絢爛豪華な様式美の「相撲の式」となり、国家安泰、五穀豊饒を祈念し、農作物の豊凶を占う「国占い」へと変化した。これが相撲の原形となった典型の農耕儀礼がある。それが愛媛県・大山祇(おおやまずみ)神社の「一人角力」。一人の力士が目には見えない稲の精霊と相撲を取り一勝二敗で精霊が勝つ。だから相撲は東西どちらが豊作かを占うのがそもそもの起源だ。それは見逃せない。

 ここには神へ相撲を奉納し豊饒を願った庶民の信仰心が窺え、さらに古代の相撲節会という国家的な行事となり、明治末、相撲は「国技」と呼ばれるようになった。神事相撲の伝統は現代へ継承されている。土俵の上の吊り屋根は伊勢神宮の神明(しんめい)造り、四隅の房は四季と各方向の主護神の象徴。また屋根を囲う紫の水引幕や清めの塩で土俵という「聖なる空間」を演出している。

 また力士の大銀杏の髪型や公家の礼法に拠った行司の色彩ゆたかな衣装、軍配には様式美が息づいている。四股名は今も力士の故郷の海・山にちなみ、横綱は神社の「しめ縄」を思わせ、正式には「産霊(むすび)の神緒」という。ここにも神事の面影が濃い。さらに土俵入りの「型」の「雲龍」は亀を象り地を表し、「不知火(しらぬい)」は鶴を象り天を表している。sumo_b150.png

 これをみても相撲は信仰心をペースに神事の様式美を大切にする国技であるといえる。櫓太鼓の響き、風になびく幟、力士の化粧廻し、呼び出しの裁着袴(たっけつはかま)や澄んだ美声…すべてが様式美。

 勝敗にのみ興味を寄せずに伝統の様式美に目を凝らし、耳を澄ませてば、相撲は単なる格闘技でない事がわかる。蹲踞(そんきょ)の姿勢や手刀(てがたな)の切り方、力水のつけ方など動作一つ一つに「礼に始まり礼に終わる」相撲の心は忘れてはならない。最近、国技と言い難い我慢ができない相撲ぶりを目にする事が多くなったと思うのは私だけだろうか?海外巡業もいいけれど力士を「相撲レスラー」と呼ぶのはやめてほしい!勝てばいい、という競技ではないのだから!

 国際人とは自国の文化という鏡で異文化を映し“違い”を理解する事が第一条件だ。
 各民族が互いに違いを認め合ってこそ国際化といえよう。誇りをもって自己への認識を深め、相手国を理解するためにも、若人よ!確かな鏡をもとう!

S. Y. J